東京高等裁判所 昭和27年(ネ)59号 判決 1952年9月09日
控訴人 被告 熊坂良雄 外三名
訴訟代理人 稲垣規一
被控訴人 原告 石田のぶ
訴訟代理人 藤原繁次郎
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人等の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人の負担とする」との判決を求め被控訴代理人は主文第一項同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張の要旨は、下記の外は原判決の事実摘示と同一であるから、ここに引用する。
被控訴代理人は控訴人等四名に対する請求は、被控訴人のその主張の家屋の所有権に基くものである。控訴人の後記の主張は否認すると述べた。
控訴代理人は控訴人等四名は夫々その占有している本件家屋部分を訴外葉住利次より賃借していたのを、昭和二十五年七月に被控訴人より承認を得たのであるから、それ以後の占有は不法でない。仮に右主張が理由ないとしても、被控訴人と葉住利次との間の本件家屋に関する賃貸借契約が存続しており、被控訴人は本件家屋を葉住利次に使用収益させる義務があるのであるから、被控訴人は控訴人等四名に対しては、単に葉住利次に対し明渡すべきことは求められるが、本訴のように、控訴人に対し直接明渡しを求める権利はないと述べた。
被控訴代理人は、甲第一、二号証を提出し、原審証人松田はる子同菅原忠五郎の各証言及び当審においての被控訴人本人訊問の結果を援用した。控訴代理人は、原審においての被告(控訴審には係属していない)葉住利次、当審においての控訴人小池秋雄、小野寺順の各本人尋問の結果を援用した。なお甲第一号証の成立を認め同第二号証の原本の存在を認めその成立は知らないと述べた。
理由
被控訴人が東京都杉並区高円寺六丁目六百七十番地所在の家屋番号同町二百十五番木造瓦トタン葺二階建一棟建坪二十一坪二階八坪五合の所有者で控訴人熊坂良雄が右家屋の階下八畳の室を控訴人小野寺順が右家屋の階下四畳半の室を、控訴人小池秋雄が右家屋の二階右側六畳の室を、控訴人石井栄吉が右家屋の二階左側六畳の室をそれぞれ占有していることは、いずれも当事者間に争がない。
控訴人等の右家屋の占有について権原ありとの抗弁について判断する。被控訴人が昭和十七年六月二十二日に上記家屋を葉住利次に対し、賃料一ケ月金四十八円、毎月月末払、期間の定めない約で賃貸したことは当事者間に争がない。被控訴人は、右賃貸借契約は昭和二十四年五月中旬に同年九年末日迄に明渡す旨の合意が成立して消滅したと主張するけれども、この点に関する原審証人松田はる子菅原忠五郎の各証言と、当審においての被控訴人本人訊問の結果は原審においての被告(控訴審には係属していない)葉住利次の訊問の結果に照し合はせてたやすく信用し難く、その外には右の事実を認めることのできる証拠もないから、右の主張は採用することができない。控訴人四名は葉住利次よりそれぞれ上記の各室を借受け、それについて被控訴人の承諾を得たと主張するけれども控訴人等の提出援用する証拠によつても、右転貸借について被控訴人の承諾を得たとのことはとうてい認めることはできない。さうであるから控訴人等のこの点に関する抗弁は結局理由がないといわなければならない。控訴人等は被控訴人等に対し直接明渡を求める権限はなく、葉住利次に対し明渡を求め得るに止まると主張している。被控訴人と葉住利次との間の上記家屋の賃貸借契約が存続していることは、上段認定のとおりであるから、被控訴人は葉住利次に対しては控訴人等の占有している各部屋をも使用収益させる義務のあることはもちろんだが、それだからといつて、被控訴人と不法占有者である控訴人等との関係においての右家屋部分の明渡請求権の行使が、控訴人等の主張のように制限されなければならないと解する必要はない。被控訴人がいつたん右家屋部分の明渡を受けたとしてもその後その家屋部分を葉住利次に引渡す場合、或は葉住利次がその家屋部分の引渡を受けなくても、それを甘受している場合その他を考えれば、被控訴人と葉住利次との間の賃貸借契約の存続することと、被控訴人の控訴人等に対する右明渡請求権の行使とは、直接には全く関係がないと考えても別に不都合がないと考える。故にこの点に関する控訴人等の主張も採用することができない。そうだとすれば、控訴人等四名はそれぞれ被控訴人に対しその占有している上記の家屋部分を明渡す義務があるものといわなければならない。故に控訴人等四名に対しその明渡を求めている被控訴人の本訴請求は全部正当で、これを認容した原判決は結局相当で、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条により本件控訴を棄却し、控訴審においての訴訟費用の負担について同法第九五条、第八九条、第九三条第一項を適用して主文のように判決する。
(裁判長判事 柳川昌勝 判事 村松俊夫 判事 高野重秋)